― 事業開発者・リーダーのためのITトレンド理解と実践講座 ―
事業開発者やビジネスリーダーに、これからのITのトレンドと活用法を紹介する、ITコンサルタント斎藤昌義さんによる連載講座の第二回。今回は、「ITで新規事業をおこなう」ときの考え方の基本を解説します。
ITは経営や業務の実践を支える基盤として欠かすことのできないものとなっています。「ビジネスはITと一体化」しているといってもいいでしょう。しかし、いまだ「ITは道具にすぎない」と言われることも多く、ITの本来の役割が正しく理解されていないようにも思います。ITの役割を正しく理解していなければ、それを新規事業に活かすことはできません。 そこで、ビジネスにとってITはどのような役割を果たしているのかを、まずは整理しておきましょう。
ITは仕事や生活を便利にしてくれる道具として使われています。例えば、
このような「道具としてのIT」は、ITの専門家に任せることのできるITです。もちろん、ビジネスの現場でどのように使われるか、あるいは使い勝手や機能などは、それを利用する業務の現場の人たちの評価に耳を傾けなければなりません。しかし、先々の技術動向や他の製品やサービスと比較したコストパフォーマンスなど、専門家でなければ判断できないことも少なくありません。「道具としてのIT」と付き合うには、テクノロジーやトレンドに精通したITの専門家主導ですすめてゆくといいでしょう。
ITが仕事の流れを円滑にし、効率を高めてくれます。例えば、
このような「仕組みとしてのIT」は業務の現場とITの専門家が一緒に取り組んでいかなければならないITです。
そもそも「仕組み」とは、業務の手順を作業単位、すなわち「プロセス」という要素に分解し、時間軸に沿って並べたものです。無駄なプロセスを省き、効率の良いプロセスの順序を決め、誰もが使えるように標準化します。それをコンピューター・プログラムに置き換えることで、誰もが間違えることなく仕事を進められるようにしたのが「仕組みとしてのIT」です。
経理や人事、受注、調達、生産、販売など、様々な業務プロセスがプログラムに置き換えられてきました。一旦、プログラムに置き換えられた「仕組みとしてのIT」は、人間のように融通を利かせることはできません。それを逆に利用して、「仕組みとしてのIT」を使わせることで標準化された業務プロセスを業務の現場に徹底させ、コストの削減や品質の安定、作業時間の短縮を実現しています。
一方、そんなITが停まってしまえば、仕事ができなくなってしまいます。時には経営や収益、社会に大きな影響を与えかねません。例えば、航空会社の座席予約システムが停まれば飛行機をとばすことができず社会問題になります。月末に銀行の決済システムが停止すれば、入金をうけられない企業が社員に給与を払えなくなるかもしれません。
もし、仕事の効率を高めたい、ミスを無くして仕事の品質を高めたいのであれば、その業務プロセスを改善すると同時に、それを動かしているITも手直しが必要になります。
このように「仕組みとしてのIT」は業務の「仕組み」を実現し、ビジネスの効率や品質を高める役割を果たしています。
そんな「仕組みとしてのIT」と付き合うには、経営や業務の現場の人たちが、ITの常識や可能性、その限界を正しく理解し、ITの専門家と議論しながら最適な仕組みを作り上げてゆくことが大切です。
ITの進化はこれまでの常識を破壊しつつあります。例えば、
このようにITが既存の常識を破壊し、「以前はまったく夢物語だったけど、いまでは簡単にできること」を増やし続けています。その新しい常識でものごとを考えるとき、これまでとは違う解釈や発想が生まれてきます。ITはそんな「思想」という役割を担っているのです。
「思想としてのIT」は、ビジネスの変革や新たなビジネスを創出する原動力となります。「思想としてのIT」と付き合うには、ITのトレンドを探り、その価値や世の中に与える影響を知ろうとすることが大切です。
ITはそれ自身が商品となって、お金を稼いでくれます。例えば、
このようにITを駆使して作った情報システムが商品となってお金を稼ぎ、ビジネスを支えています。そのため、その出来の善し悪しが収益を大きく左右することになります。
そんな「商品としてのIT」はその事業を担う人たちが責任を持って設計、構築、運用をしなくてはなりません。マーケティングや営業も深く関わってくるでしょう。当然、ITにできること、できないこと、そしてITがもたらす価値や可能性を深く理解しておく必要があります。設計、構築、運用の実務はITの専門家に任せることはできますが、その成果については事業を担う人たちが責任を担わなくてはなりません。
「商品としてのIT」と付き合うには、ITについて深く精通し、ITの専門家とどのような商品を作るかを、技術的なことにまで踏み込んで議論ができなくてはなりません。
また「商品としてのIT」は、本章で既に紹介した3つのITの総力戦でもあります。つまり、
そんな取り組みが、魅力的な「商品としてのIT」を実現するのです。
斎藤 昌義(サイトウ マサヨシ)