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多目的な人工知能=AIを使ってデータの活用を進めて行く中で、人間のハピネス度までも測れることを発見したのは、日立の研究開発グループで研究を続けている矢野和男博士。そして、幸福なグループは生産性が高いことを明らかにされました。インタビューの最終回は、AIの分析結果をフィードバックすることで、人々を幸せにすることもできるという興味深いお話をご紹介します。

業務改善には人間のデータが欠かせない

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日立の人間行動データの取得技術は、他社より進んでいると思います。それは、日立は13年前から人間に関するデータの重要性に気づき、大量に収集しているからです。

今後、経済を活性化させるための命題は、ナレッジワーカー、サービスワーカーの生産性向上です。そのためには日々変化するナレッジワーカーたちの行動をまず知る必要があるのです。

例えば前回紹介した多目的AIによる物流倉庫における事例でも、作業者がその日、倉庫内をどのよう作業したかという作業記録データを活用しました。 その倉庫では「1日の総作業時間の短縮」を指標=アウトカムに設定し、過去の作業データを材料に学習することで、AIが最適な集品順序を自動で作ります。 それを翌日、作業指示書として作業者へ出力し、作業者はその指示書に基づいて集品するわけですが、例えば順路を変えてみるなど、作業者も臨機応変に工夫をします。その日が終わると人工知能はそうした工夫もすべて取り込み、翌日の指示書に反映させます。つまりその倉庫では、毎日データを介して、人間とAIが学習し合い、生産性を高めていったのです。

幸せかどうかもデータに表れている

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人間の行動データを採る中で最近ブレークスルーがあったのは、行動データによって人間の活性度と幸福感=ハピネス度がわかるということです。

われわれは加速度センサーで測定した人間の行動データを100万日分以上持っていますが、これらのデータを解析している中で人の動きのさまざまなパターン――歩いている時、喋っている時、食事している時、パソコンを操作している時・・・などが見えてきます。これをもう少し推し進めたら、もしかしたら人間のハピネス度がわかるのではないかと考えました。

そこで研究を始めたわけですが、どう進めたかというと、まず20の質問を468人、10個の組織に聞きました。今週幸せだった日は何日くらいありましたか、楽しかった日、孤独だった日、悲しかった日は何日くらいありましたか、などという問いに0から3の4段階で答えてもらいます。一番ハッピーな人は、3点×20問で60点満点。これを組織ごとに平均してみると、その組織がどのくらいハピネス度が高いかという数値が出ます。

そして、被験者の方に加速度センサーを付けていただき行動データを採取するわけですが、その10の組織のハピネス度の数値と行動データのある特徴とが強く相関していることがわかったのです。それは0.94という、私も意外なほどきわめて高い相関関係でした。

どういう特徴なのか簡単にいうと、行動の多様性がたくさん見られる組織は幸せな組織だ、ということなのです。ここで行動の多様性は動きが継続する長さで測ります。すなわち継続する時間が1分とか20分とか、人、時、場合によってバラバラだということです。長い時間動き続けている場合もあればそうでない場合もある。幸せな組織は動きが継続する長さが場合によって多様なのです。

ところが、不幸せな組織は、金太郎アメみたいに約10分で動きが止まってしまうことが多い。この動きさえ見れば、幸せな組織かそうでないかがわかります。 そしてハピネス度の高い集団というのは生産性も高いことが研究で明らかになりました。幸せとかハッピーというと「安楽」というイメージと結びつきそうですが、まったく違うのです。幸せな組織はむしろ活気があり、適度な緊張感のある組織です。

ある商材の販売を行うコールセンターなどでは、従業員のハピネス度が高い日はそうでない日に比べて受注率が34%も高いという結果が出ました。小売店舗でも従業員のハピネス度が高い日は、15%も売り上げが高かったのです。また、新商品開発のミッションを与えられた幾つかのグループで比較してみると、最初の2ヶ月間、メンバーの幸福度が高かったプロジェクトチームは、その後5年間にわたる売り上げが高かったのです。

幸せとはチームプレイ

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ハピネスというものは個人のものだと皆さん思いますよね。ところがまったく違っていて、集団現象だということも行動データから明らかになっています。 昨年、福岡ダイエーホークスが日本一になった際に、工藤監督がインタビューで答えていました。今年はベンチの雰囲気づくりがとてもうまくいって、それが優勝に貢献した、と。福田、川島という二人の控え選手がピンチの時に声を出して、それがベンチの雰囲気をよくしたと言っていました。これは、ねぎらいの言葉のように聞こえますが、実際にこの通りのことが起こったのだとわたしは思います。

というのは、コールセンターの例でも、過去半年の受注実績のデータを見てみると、当然ながら人によって受注率の高い人も低い人もいます。四番バッターのような人もいれば、控え選手みたいな人もいるわけです。そして、多くの方は正社員ではないので出社する人の顔ぶれは毎日違います。ですから、四番バッターのような人が多く出社する日もあれば、そうでない日もあるわけです。

ところが四番バッターが多い日の受注が多いかというと、まったくそういう相関はなく、動きの多様性が高い日の受注率が高いのです。では、より動きの多様性の高い人たち自身の受注率がいいのかというと、必ずしもそうではないのです。つまりその人たちは、周りを活性化することで、チームの生産性を引き上げることに貢献しているのです。ホークスの福田選手、川島選手のように。四番バッターは、そういう人たちの活力を吸い込んで活躍しているということです。また四番バッターばかりを集めても、チームは強くならないということです。

それでは組織の活力を上げるにはどうしたらよいか。それは多目的AIによって、さまざまなコミュニケーションがハピネス度に影響していることがわかっています。例えば、従業員同士のランチタイムの雑談や、上司であるスーパーバイザーの声掛けなどです。

言葉では「組織の活性化が大事だ」と言われてきましたが、「活性」は測ることができないために結果として大事にされてこなかったのではないでしょうか。活性度を高めるのに貢献した人は、これまで企業においてまったく評価されてきませんでしたが、今後は評価の対象にすべきだと思います。

人工知能が、幸せで生産性の高い集団を作る

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こうお考えの人がいるかもしれません。幸せの感じ方は仕事によって、国や文化によって違うだろうし、幸せの定義自体すら違うのではないかと。しかし客観的データはそんなことはないといっています。異なる業種や会社でも、行動の多様性とハピネス度は極めて強く相関していることが検証されているのです。 これにより多目的AIを活用して、人間の行動データをもとに活性度(ハピネス度)と生産性を上げるためにすべきことを自動でフィードバックすることができる、ということです。

すでに東京三菱UFJ銀行様と日本航空様では取り組みが始まっており、その成果をニュースリリースで発表させていただいています。

この先、経済の活性化のためにはナレッジワーカー、サービスワーカーの生産性を引き上げることが鍵です。しかもナレッジワーカーたちの業務は市場の変化によって日々変わりますし、メンバーが変わることも多いでしょう。すなわち従来のやり方では生産性を上げることは、きわめて難しいのです。

その時、彼らの行動データを日々取得し、ハピネス度向上をアウトカムとして「Hitachi AI Technology/H」に入力することで、どのような会議やコミュニケーションが必要で(あるいは不要で)、どのような時間の使い方に変えなければいけないかを(アドバイスを)多目的AIから得ることができます。

これにより生産性の向上を定量化できる形で実現することができます。データに基づきAIは状況変化に対応します。その結果、常に学習して成長し続ける組織が生まれます。これは、まさに多目的AIがなければできないサービスです。この取り組みはまだ始まったばかりですが、これから先の人類の幸せに貢献できるソリューションへと成長させていきたいと考えています。

プロフィール

矢野 和男(やの かずお)

株式会社日立製作所 研究開発グループ技師長
1984年日立製作所入社。2003年頃からビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引してきた。論文被引用2,500件、特許出願350件。人工知能からナノテクまで専門性の広さと深さで知られる。現在、研究開発グループ技師長。著書『データの見えざる手』は2014年のビジネス書ベスト10(Bookvinegar)に選ばれる。工学博士。IEEE フェロー。

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