たとえば、森に行くとさまざまな生きものがいることが分かります。森の奥に暮らしているキツネやウサギ、小鳥や昆虫のほかにも、私たちの目には見えないほど小さな微生物など、さまざまな生きものがいます。こうした森の生きものたちはバラバラに存在しているのではなく、すべてがお互いに関係して生きているのです。これを「生態系」と言い、生態系にたくさんの種類の生きものがいることを「生物多様性」と言います。
生態系の中には、「食物連鎖」と呼ばれる、「食べる」「食べられる」のつながりがあります。たとえば、ウサギのような草食動物は森の草や木の実を食べますが、そのウサギを食べるキツネのような肉食動物がいます。また、そのキツネも、より大きな肉食動物に食べられてしまうことがあります。
また森には、動物のフンや死がい、落ち葉があり、それらは微生物やダンゴムシ、ミミズなどによって分解され、土の中で養分となります。その養分を吸収して、植物が育ち、その植物を草食動物が食べるわけです。このように、お互いに影響を与え合いながら、自然界全体のバランスを保っているので、つながりのある生きものがいなくなると、生態系全体に大きな影響が出てきます。
現在、その生態系が危機にひんしています。そしてその原因の多くは、われわれ人間の活動だと言われています。このままでは、私たちは自らの行いで、自分たちが暮らす生態系や生物多様性を壊してしまうかもしれません。生物多様性の危機は、3つの危機と地球温暖化による危機によって引き起こされています。一つ一つ見ていきましょう。
出典:環境省 自然環境局
生物多様性〜いのちと暮らしを支えるもの〜
各種ウナギ類稚魚の漁獲量(1960〜70年代を100としたときの推移)
環境省は2013年2月1日、汽水・淡水魚類の新たなレッドリスト(絶滅の恐れがある野生生物の種のリスト)にニホンウナギを追加しました。みなさんが食べるウナギは、近海でとったり輸入した稚魚のシラスウナギを育てたもの。この稚魚が年ごとに少なくなり、10年前の時点でもピーク時の2割ほどしかとれなくなっています。不漁の原因は、海水の温暖化やエルニーニョなど自然現象や乱獲、河川の人工構造物の建設などが考えられていますが、原因は未だ不明です。日本の食文化に欠かせないウナギを守るため、厳しい漁獲管理や資源保護などの対策が必要です。
グラフ:農林水産省 農林水産レポート
出典:環境省 2013年2月1日報道発表資料より
耕作放棄地
手入れ不足の雑木林
昔の日本は、生活に必要なものを自然から手に入れるため「里地里山」で暮らしていました。水田・畑などの農地をつくり、ため池や水路をつなぎ、燃料となる薪を森から運び出したりして、自然とともに生きてきました。こうした暮らしが生態系の保全に大きな役割を果たしてきたのですが、世の中が便利になるにつれて徐々に失われ、荒れた田畑や森林が増えてしまったのです。
もともとその地域にいなかったのに、人間の活動でほかの地域から入ってきた生きものを「外来種」と言います。「ブラックバス」という釣りの愛好家に人気の高い、北米に生息していた魚もその一つ。この魚は、人間の手で日本に持ち込まれ、今では日本中の多くの湖や池に生息しています。ブラックバスは肉食のため、もともとそこに住んでいた日本の魚を大量に食べてしまい、生態系に大きな影響を与えています。
白化したサンゴの例
健康なサンゴの例
人間の出す温室効果ガスなどが原因で、地球全体の平均気温は昔と比べて上がっています。地球の気温が1.5〜2.5℃上昇してしまうだけで、サンゴやアザラシ、ホッキョクグマなどが生息できない環境になってしまうと言われています。温暖化によって世界の動植物の20〜30%は、絶滅のリスクが高まるという調査報告もあります。
出典:環境省 IPCC第4次評価報告書(2007)
※気候変動に関する政府間パネル(Inter governmental Panel on Climate Change)
生態系や生物多様性を保護するために、1992年、ブラジルのリオデジャネイロで地球サミット(国連環境開発会議)が開催されました。世界中の国や地域が一堂に集まり、話し合いの場を持つことになりました。以来、条約や取り組みの状況を確認したり、議論を深めるために「締約国会議」が定期的に開催されていて、「COP(コップ)」と呼ばれています。
※COP:Conference of Parties