東京近郊、JR国分寺駅にほど近い鬱蒼とした森の奥にあるナゾの施設……それは、日立の中央研究所。1942(昭和17)年、「今日の開発だけでなく10年、20年先を見越した研究をやろう」という創業社長・小平浪平の意志で誕生して以来、ここから生まれた技術・製品は数知れず、それらは私たちの社会・暮らしにも少なからず役立てられてきたのです。代々“森の中の変人”との異名をもつ研究者のインタビューから「日立の頭脳」の内実に迫ります。
[インタビュー] 異分野が融合・横断するダイナミズムこそ、研究開発の原動力。 福永泰(日立製作所 中央研究所 所長) エネルギー、コンピューター、エレクトロニクス、通信、ライフサイエンスなど多様な分野での研究開発を基本に、それらにまたがる研究を通じて新たな可能性を導き出す。多彩な知の結集と融合が「日立の頭脳」を支えています。
[インタビュー] 中研R&D(1) 生体を情報化する ヒトゲノムの完全解読を導いた……DNAシーケンサー 神原秀記(日立製作所 フェロー)
「DNAシーケンサー」は、遺伝情報を担うDNA塩基配列の自動読み取り装置。神原は1988年に蛍光式DNAシーケンサーを日本で初めて製品化、2000年には解析能力を格段に増したキャピラリーアレーDNAシーケンサーを世界に先駆け実用化し、ヒトゲノム完全解読('03年)に大きく貢献します。
もともと神原の専門は、物理化学。測定・解析技術の研究で生体関連物質を対象にしたことからライフサイエンスと出会い、DNA解析へと向かうのです。「技術は独占的であってはならない」という持論のもと、目下、普及型の小型DNAシーケンサーやヒトの細胞の解析装置の開発に取り組んでいます。
小型遺伝子解析装置
[インタビュー] 中研R&D(2) 情報環境のステージを開く 情報端末の進化を牽引する……マイクロプロセッサ 内山邦男(日立製作所 研究開発本部 技師長) パソコン、ゲーム機、デジタル家電、携帯電話……情報機器の進化を支える頭脳、マイクロプロセッサ。内山は1980年代後半から、高性能で低消費電力、しかも低価格という常識破りのマイクロプロセッサの技術開発にかかわり、'90年代に訪れる情報機器のデジタル化の波を後押しします。現在は、画像、音声、映像など多彩なデジタルデータを、複数のプロセッサを組み合わせた1チップ上で処理するマルチコアプロセッサの開発に取り組んでいます。
W51H
そこには、中央研究所が長年汎用コンピューターの研究で培ってきたプログラム並列処理の技術などが生かされているのです。
カーナビゲーションシステム
[インタビュー] 中研R&D(3) 放送・通信を融合する ハイビジョン1000チャンネル時代を開く ……次世代光ネットワーク技術 池田博樹 (日立製作所 中央研究所 ネットワークシステム研究部 研究員) 親松昌幸 (日立製作所 中央研究所 組込みシステム基盤研究所 デジタルアプライアンス研究センタ)
次世代光ネットワークGPON(Gigabit Passive Optical Network)研究に携わる池田は、高速・大容量2.4Gbpsの光伝送装置を開発。これは、家庭で1Gbpsの超高速インターネットと約100チャンネルのハイビジョン放送の同時受信を可能に。
一方、アプリケーションの開発に携わる親松は、膨大なコンテンツの中から見たい情報を効率よくピックアップする映像ナビゲーション技術「いいとこ観(み)」の開発を担当。彼らはこのネットワークとインタフェースを融合することによって、家庭内のコンテンツの一元管理や遠隔医療システムなど、放送・通信の融合をにらんだ新たなサービスを模索しています。
Prius
[インタビュー] 中研R&D(4) “センサネット”を創る ヒトを測り、行動に変化をもたらす ……リストバンド型センサノード 矢野和男(日立製作所 中央研究所 主管研究長)
中央研究所で20年以上、半導体の研究に携わってきた矢野は4年前、「どこにでも取りつけられる1ccのコンピューター」をコンセプトに、センサネットの開発を開始。そこで開発された、加速度、脈拍、温度を計測できるリストバンド型無線センサノードを自ら装着。そのデータを解析すると、自分の24時間の活動状況がわかるばかりか、体調や心の状態までも読み取れるといいます。これを活用すれば、たとえば集団や組織のパフォーマンスを測り、生産性の向上に役立てることも可能に。いずれウェブを超えるというセンサネットのさまざまな可能性が見えてきました。
リストバンド型 無線センサノード
[年表] 日立・中央研究所1942→2007 主な業績を年表と10のコラム(以下)に収録。
日立・中央研究所サイト
[エッセイ] 技術に会う 8 多言語が踊り出す 管啓次郎 (翻訳者、エッセイスト)
「幼稚園のころ東京オリンピックを白黒放送で見て、4年後のメキシコになると画面はカラーになっていた。語学の勉強に興味をもつと、ペラペラのソノシート(ビニール製レコード)をくりかえし聴いた。ねだって買ってもらったオープンリールの録音機は数年のうちにカセットに代わり、大学時代にはヘッドホンステレオで音楽を楽しむ第一世代となり、すぐにCDの時代、ビデオの時代が訪れた。技術はどんどん変わり、それにつれて心も変わる……」 今、その心のありようを「インターネット」が大きく変えつつある。世界を等しくつなぐネットワークによって、文学・言語はもっと自由に飛び火し、模倣され、つくり替えられ、広がっていく――。
[トーク]
日立グループのさまざまな取り組みや業界の最新動向を、キーパーソンの「talk(語り)」を通して紹介します。さらに「talk」のテーマを、「+(プラス)」で写真やダイアグラム、図鑑などに展開。
優れた技術を、いかに新たなビジネスプランに結びつけるか。マーケティングの発想も踏まえ、新事業創成を担うのが「コーポレート・ビジネス・クリエータ制度」です。その第1号である長谷川が着目したのは、1995年に日立・中央研究所で生まれた「光トポグラフィ」。ヘッドキャップを装着するだけで脳の活動を計測・画像化できる光トポグラフィは、すでにALS患者の意思伝達装置「心語り」や、アミューズメントスポット・ナンジャタウンのアトラクション「若返りの秘宝」などに取り入れられ、さらに創薬や脳科学教育の分野などへの応用が模索されています。
昨季J2リーグ最終節でJ1昇格を決めた、我らが柏レイソル。開幕ダッシュに成功しながら、これほど苦しい戦いとなったのは、あえてJ2で勝ちやすいカウンターサッカーを捨て、J1でも通用するアグレッシブなサッカーを貫いてきたため。そんな頑固一徹、人情味あふれる石崎監督のもと、ベテランがチームを盛り立て、若手が成長、チームはたくましさを増したのです。さて、1年ぶりのJ1でレイソルはどんなサッカーを見せてくれるのか。石崎監督にチームづくりのコンセプトと目標を聞きました。「+」ではMF山根、DF古賀、FW李、DF岡山、MF鈴木、GK南の各選手から、今季の意気込みを一言! 柏レイソルオフィシャルサイト
[写真] technobscure 8 Andreas Gursky 「Greeley 2003」
視界の果てまで続く広大な牧場、その中にうごめく無数の牛、牛……。大判カメラがそのディテールを隅々まで精緻に浮かび上がらせる。アンドレアス・グルスキー(独 1955-)は世界各地の工場やオフィスなどをモチーフに、グローバル化する高度資本主義社会を写し出します。
[ルポルタージュ] 永瀬唯の サイエンス・ パースペクティブ 8
科学技術ライターの永瀬唯氏が日立グループの現場や研究施設を歩き、レポートします。 今回は日立ハイテクノロジーズ・那珂事業所(茨城県ひたちなか市)へ。日立は1941(昭和16)年に透過電子顕微鏡を試作、'55年には「HU-9形」を米国に輸出し世界市場へ進出します。以来、電界放出形走査電子顕微鏡で世界最高分解能を実現('71年)、
350万Vの超高圧電子顕微鏡('95年)など、常に世界をリードしてきました。2005年には卓上サイズのコンパクトな走査顕微鏡「Miniscope」TM-1000を開発、“理科離れ”がいわれる教育現場などへの普及にも努めています。
日立ハイテクノロジーズ
[ニュース] ダントツさんが行く! 7
“ダントツ”をこよなく愛する主婦ダントツさんが家電製品などを研究・紹介します。 日立の最新掃除機は、紙パック方式とサイクロン方式の2本立て。45,000rpmの高速回転で540km/hの高速風をつくり出すハイパワーに加え、掃除のたびにフィルターを振動させ自動除塵するのでパワー長もち。ナノレベルのウイルスや細菌まで99.999%キャッチ、さらにナノプラチナ、ナノチタンでしっかり消臭。目指したのは、世界一きれいな排気! 日立の家電品 クリーナー
[コラム] 技術の日立 今昔 4
1978年に登場した「VK-C550」は、ポータブルVTR「VT-3500」と接続するとVHSテープにそのまま録画が可能に。とはいえ重量は二つ合わせると約10.5kg! 録画時間は約2時間でした。
Wooo DVDカメラ
『ひたち』第69巻第2号(春号) 2007年4月1日発行 定価315円(本体300円)