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2021年1月26日
株式会社日立パワーデバイス
株式会社日立製作所
発電、送変電、電動化を担う機器の高効率化・省エネ化により脱炭素社会の実現に貢献
新構造SiCパワーデバイス「TED-MOS®」
株式会社日立パワーデバイス(取締役社長:奈良 孝/以下、日立パワーデバイス)は、電力システムや鉄道、EV、データセンターなどの重要な社会インフラを構成する各種機器・設備の高効率化や省エネ化を実現する、次世代材料の炭化ケイ素(SiC)を用いたパワーデバイス*1の新製品であるFin状トレンチ型*2MOSFET*3「TED-MOS®」*4のサンプル出荷を2021年3月から開始します。
「TED-MOS®」は、2018年8月に株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立)が開発した高耐久性構造SiCパワーデバイス*5を製品化したもので、従来のSiCパワーデバイスの課題であった、半導体チップ表面のトレンチ(溝)の底角部分に強い電界が集中しやすく、耐久性との両立が困難であるという点を克服するため、トレンチにFin(ひれ)を形成し、Finの側壁を電流経路とする日立独自構造を採用しています。今回の製品化にあたって、日立パワーデバイスと日立は、短絡耐量*6と抵抗を独立して最適化できる開発手法を新たに採用することにより、セルピッチの縮小と最も低抵抗な電流経路の最適化設計を実現し、耐久性と低消費電力特性を業界最高レベルに向上させるとともに、設計の自由度を高め、多様な用途に合わせた製品設計を可能としました。日立パワーデバイスは、「TED-MOS®」の提供を通して、さまざまな社会インフラの電力消費量・二酸化炭素排出量削減を支援し、脱炭素社会実現に貢献します。
世界的なエネルギー需要の増加が見込まれる中、パワーデバイスはさまざまな社会インフラに活用されており、脱炭素社会実現に向けて、さらなる高効率化・省エネ化が求められる製品分野です。その中で、SiCパワーデバイスの性能向上は、経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で重要分野に挙げられている洋上風力や、次世代太陽光、鉄道などの物流・人流、自動車・蓄電池、情報通信、船舶といった産業分野において、発電、送変電、電動化を担うインバーター・コンバーター機器の高効率化、小型化・軽量化、高耐熱による冷却機構の簡素化などによる省エネ化につながります。
日立と日立パワーデバイスは、脱炭素社会の実現に貢献するべく、鉄道やEV向けに、さまざまなパワーエレクトロニクス製品を開発・提供してきました。2018年には、従来製品であるSiC DMOS-FET*7の大電流容量・低消費電力などの性能をさらに高めたSiCパワーデバイスとして、今回製品化する「TED-MOS®」の開発を発表しています。
今回サンプル提供する「TED-MOS®」は、SiCパワーデバイスの課題である耐久性と低消費電力特性を両立するため、電界強度を大幅に低減する「電界緩和層」と、デバイス中央部を低抵抗化する「電流拡散層」を設けた上で、抵抗の小さい結晶面であるFin状トレンチの側壁を電流経路とするデバイス構造を採用しました。また、短絡耐量と抵抗を独立して最適化できる開発手法を新たに適用し、セルピッチの縮小と最も低抵抗な電流経路の最適化設計を実現したことにより、2018年の開発当時と比較して、短絡耐量の20%向上と、製品化に必要な1.2kVの耐圧を確保した上での抵抗の40%低減を実現し、「TED-MOS®」の性能を業界最高レベルに引き上げるとともに、多様な用途それぞれに合わせた特性を持つ製品の設計を可能にしました。さらに、製品化に重要なプロセスコストは、従来製品であるSiC DMOS-FETと同程度に維持しました。
日立と日立パワーデバイスは、これまで開発・提供してきた輸送用機器向け製品群に加え、社会インフラのイノベーションに向けた製品の開発・提供を進め、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
SiCパワーデバイスは、従来のシリコン(Si)と比較して電気を通しやすいため高速でスイッチオン・オフできる性能を持ち、電力変換器の電力消費量低減に適していますが、Siと異なり結晶面によって電気の通しやすさ(抵抗)が異なります。そのため、従来のDMOS-FET(図1(1))に対して低抵抗な結晶面に電流を流すトレンチ型SiC MOSFET(図1(2))が製品化されていますが、トレンチ底角に電界が集中しやすい構造のため、電界が強く耐久性との両立が困難でした。また、耐久性と抵抗が一つのトレンチ構造だけで決まるため、幅広い分野に応じたデバイス設計に課題がありました。
そこで、「TED-MOS®」では、耐久性と低消費電力特性を両立するため、電流の集中するデバイス中央部に電圧のかかり方を緩和する「電界緩和層」を設け、電界強度を大幅に低減しました。さらに、デバイス中央部を低抵抗化する「電流拡散層」を設け、SiCの中でも抵抗の小さい結晶面であるFin状トレンチの側面とつながる電流経路とするデバイス構造を採用しました(図1(3))。さらに今回、耐久性の指標である短絡耐量をデバイス中央部のn-JFETと呼ばれる部分の最適化、電力消費の指標である抵抗をトレンチ部分の最適化で独立して設計できるようにすることで、デバイス設計自由度の課題を解決するとともに、セルピッチの縮小と最も低抵抗な電流経路の最適化設計を実現し、耐久性と低消費電力特性をさらに向上させました。
これらの特長を基幹技術としてデバイス開発期間を短縮することで、環境ビジネス向けに広がるお客さまのパワーエレクトロニクス製品展開に貢献します。
図1 SiCパワーデバイスの構造
製品シリーズ | 電圧 | 電流 | サンプル提供開始時期 |
---|---|---|---|
SiC TED-MOS | 1.2kV | 35 A〜 | 2021年3月 |
その他の製品ラインアップは日立パワーデバイスウェブサイトの製品情報をご参照ください。
日立パワーデバイスは、脱炭素社会の実現に貢献するべく、鉄道産業向け1.7〜6.5kV耐圧HiGT*8シリーズ、電気自動車向け6in1直接水冷IGBT*9など、さまざまなパワーエレクトロニクス製品を提供してきました。
2016年には、鉄道向けに、小型ながら世界最高レベルの大電流の制御を可能にしたSiC DMOS-FET製品をリリースし、車両部品の小型軽量化に貢献しつつ、その低消費電力特性により、従来技術であるIGBTを採用した車両に比べ約30%の消費電力削減に貢献しました。「TED-MOS®」は、このSiC DMOS-FETの持つ、大電流容量、低消費電力等の特長をさらに高めた次世代技術を採用しており、さらなる消費電力削減への貢献が期待されています。
日立は、OT(Operational Technology)、IT(Information Technology)およびプロダクトを組み合わせた社会イノベーション事業に注力しています。2018年度の連結売上収益は9兆4,806億円、2019年3月末時点の連結従業員数は約296,000人でした。日立は、モビリティ、ライフ、インダストリー、エネルギー、ITの5分野でLumadaを活用したデジタルソリューションを提供することにより、お客さまの社会価値、環境価値、経済価値の3つの価値向上に貢献します。
株式会社日立パワーデバイス
以上