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2015年3月9日
20kmの光ファイバを用いて従来比4倍となる400ギガビット/秒級の伝送実験に成功
株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立)は、このたび、多拠点に分散したデータセンター間の通信や大規模データセンター内のネットワークを対象とした大容量・高信頼ネットワーク技術を開発しました。実際のフィールドに敷設した20kmの光ファイバを用いた試験用プラットフォームにて、データセンターのネットワークを想定した光伝送およびシステムの連携実験を行い、その実用性を確認しました。
スマートフォンの普及、クラウドコンピューティングやビッグデータ利活用の進展により、データセンターが扱うデータ量は急激に増加しており、それにともないデータセンター内のサーバやストレージの設置台数も増えています。データセンター内では、スイッチやルータ装置を用いて、複数のサーバやストレージから出力されたデータ回線を段階的に集約し、外部とデータを送受信しています。しかし、1台のルータやスイッチ装置で集約できる回線数には制限があるため、データセンター内のサーバやストレージの増加にともない、経由するスイッチやルータ装置が増えることによる転送遅延が発生し、データセンター全体の性能向上を阻害する要因になっています。
また、データセンターが大規模化していくと、広域災害などによるネットワークの遮断や、データセンターの停止により社会に与える影響が甚大になることが予想されることから、1ヶ所のデータセンターでトラブルが発生した際にデータ処理を瞬時に移行して運用を継続できる多拠点、分散型のデータセンターが求められています。
このようなニーズに応えるため、日立は、(1) 低遅延かつ効率良くデータセンター内のデータを集約する技術、(2) 400ギガビット/秒級(従来比4倍)でデータセンター間の大容量通信を実現する光多値伝送向け送受信技術、(3) 複数の伝達路を持つマルチコア光ファイバを用いた災害に強い伝送経路冗長化技術を開発し、データセンター向け大容量・高信頼ネットワークシステムの構築を図ります。
開発した技術の詳細は次の通りです。
データセンター内の各サーバやストレージなどから出力されるデータ回線をビットごとに順番に1本の回線に集約し、各送信先に自動的に振り分ける技術を開発しました*1。サーバやストレージはデータをパケットという長さに分割して送信するパケット通信を行っていますが、データをルータやスイッチ装置で集約し転送する際には、パケットに付いている宛先情報の読み取りと宛先検索など*2の処理を同時に行うため、パケットの内容に応じた転送遅延が生じます。新たに開発した技術ではデータを集約する際に、あらかじめビットごとに送信する順番と送信先をひもづけし、転送後に自動的にデータを各送信先に振り分けることで、パケット通信で行っていた複雑な処理が不要になります。これにより、転送遅延を低減し、省電力にデータを集約することが可能になります。
また、サーバやストレージ装置が行うパケット通信は、それぞれ手順(プロトコル)が異なることから、それぞれのプロトコルに対応した専用の通信装置を用いて別個のネットワークを構築する必要がありました。今回開発した集約化技術では、パケットよりもさらに細かいビット単位で1本の回線に集約するため、各種プロトコルの影響を受けず、サーバ向けLANやストレージ向けネットワークをまとめて集約できるようになります。データセンター内のネットワークをシンプルに構築することで、データセンター全体の処理性能向上に加え、省電力効果も得られます。
光の波の振幅(強さ)と位相(タイミング)を少しずつ変えた16個の状態で情報を表現する多値変調を行うことで、1度に4ビットのデジタル情報を送信することが可能な16値多値光通信方式*1に対応した、10〜40kmの中距離通信用の光送受信器を試作しました。従来、データセンター間やデータセンターと建物などをつなぐ光通信ネットワークは、光の点滅の2個の状態で情報を表現し、1度に1ビットのデジタル情報を通信することが可能な2値変調を行っていました。今回開発した技術では、光の波の振幅と位相を少しずつ変えた16個の状態で情報を表現する多値変調を行うことで、1度に4ビットのデジタル情報を送信することが可能になり、1波長では従来比4倍となる100ギガビット/秒のデータ送信を可能にします。さらに、これを4つの異なる光波長の信号で集約化し送信することで、1本の光ファイバあたり400ギガビット/秒のデータ通信を実現します。試作した光送受信器では、構造が簡素な光検出器を用いて多値信号を受信する遅延検波方式を採用し、リアルタイムでの動作を確認しました。
マルチコアファイバ内の伝達路の一部を予備経路として残しておき、災害時の通信断絶を瞬時に検出し、データを予備伝達路へ高速に切り替える技術を開発しました。現在、1本の光ファイバには光信号を伝達する経路のコアが1本しかないため、災害による断線などにより、通信が遮断されるという課題がありました。そこで、新たにコアを複数持つマルチコアファイバが開発され、その実用化に向けてさまざまな取り組みが各機関で行われています。日立は、7本のコアを内包するマルチコアファイバを用い、一部のコアを平常時には予備のコアとするとともに、1本のコアを通信断絶の検出、および通信装置間での通信経路切替え制御信号の交換に常時使用する冗長化技術を開発しました。これにより、あるファイバで通信遮断が生じた際には、使用中だったコアの通信を他のファイバの予備のコアに迅速かつ確実に振り分け、災害時における通信路の遮断を回避します。
開発技術の実用性を検証するために、北海道札幌市に敷設された20kmの光ファイバを用いて、データセンター内外のネットワークを模擬した試験用プラットフォームを構築し、今回開発した3つの技術を連携させた実証実験を行いました。その結果、回線を集約する際のデータ転送遅延を1マイクロ秒以下に低減、20kmの通信距離で従来比4倍となる400ギガビット/秒級光通信、マルチコアファイバによる経路の高速切替え動作などを確認し、開発技術の実用性を確認しました。
本技術については、2015年3月10日より滋賀県で開催される「電子情報通信学会 2015年総合大会」で発表する予定です。
なお、本研究開発による成果の一部は、総務省 研究開発プロジェクト「超高速・低消費電力光ネットワーク技術の研究開発」によるものです。
図1 開発技術を適用したデータセンター
株式会社日立製作所 中央研究所 情報企画部 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 042-323-1111(代表)
以上