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稲の立毛時期において自律走行型ロボットトラクターを用いた無人作業に成功
精密農業の実現へ
オーストラリアにおける準天頂衛星システムの精密農業への利用可能性調査を受託
日立造船株式会社(大阪市住之江区、取締役社長兼COO:谷所 敬、以下、日立造船)および株式会社日立製作所(東京都千代田区、執行役社長兼COO:東原 敏昭、以下、日立製作所)、ヤンマー株式会社(大阪市北区、取締役社長:山岡 健人、以下、ヤンマー)は、このほど、総務省が実施する「海外における準天頂衛星システムの高度測位信号の利用に係る電波の有効利用に関する調査」(以下、本調査)の委託先に選定されました。
本調査では、準天頂衛星システム*1から配信される高度測位信号がオーストラリアにおける精密農業に利活用できることを検討します。具体的には、同地域の稲を栽培する農場において、高度測位信号を用いて自律走行型ロボットトラクターを制御し、実際の農作業を行う実証実験を実施します。この実証実験を通じて、現在技術実証が進められている3種類の高精度測位方式 (①RTNet ②RMIT ③MADOCA)*2からオーストラリアでの精密農業に適切な方式を選定することをめざします。
従来のGPS衛星から測位データを直接受信する精密単独測位方式(PPP方式)の測位精度は約10-20cmが限界であり、センチメートル級の測位に置き換えることができないことが課題となっていました。そこで、本調査ではオーストラリアの電子基準点*3を使用した新しい精密単独測位方式(PPP-AR方式)を適用することで測位精度を高め、誤差5cmの精度で農作業ができることをめざします。2014年11月末に本調査の最初の実証実験を行い、自律走行型ロボットトラクターを使用した稲の立毛時期における条間走行(植えた稲と稲の間をタイヤが通る走行)と農作業に成功しました。今後は、2015年1月に稲の生育状況を自律走行型ロボットトラクターで計測するなど、複数の農作業を時期を変えて行い、本調査を推進していきます。
本調査後には、実証実験で得られた成果をもとに、農業従事者や政府関係者へのヒアリングを通して、高度測位信号を用いた精密農業の実用化に向けた課題の抽出を行います。将来には、本調査実施機関を中心としたコンソーシアムを形成し、精密農業事業を積極的に展開していく予定です。また、本成果をもとにした位置情報の高精度化技術の他事業への応用や、オーストラリア以外の日本やアジアへの展開も検討していきます。
なお、本調査の概要は次のとおりです。
本件の概要
1. 委託者: |
総務省 |
2. 調査名: |
海外における準天頂衛星システムの高度測位信号の利用に係る電波の有効利用に関する調査 |
3. 調査内容: |
準天頂衛星のLEX信号*4から高精度測位補正情報を生成し配信を行い、実際の農場おいて、自律走行型ロボットトラクターによる農作業や稲の生育状況の収集を行う。 |
4. 参加機関: |
日立造船、日立製作所、ヤンマーが中心となり、準天頂衛星運用機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)や、日本とオーストラリアの研究機関が技術協力および調査支援として参加する。
【各機関の役割】
- 日立造船(主契約者):
- プロジェクト全体の管理を行い、高精度測位システム調査検討・測位精度評価および全体評価を行います。新しい測位方式として日立造船のマルチGNSS解析ソフトウエア「RTNet」のPPP-AR測位機能を用いて、準天頂衛星のLEX信号に重畳できる高精度測位補正情報を生成し配信を行い、現地における測位実証実験及び自律走行型ロボットトラクターの制御への適用調査を行います。
- 日立製作所:
- トラクターに搭載されている作物生育センサーのデータと自律走行型ロボットトラクターの走行データを“地理情報 クラウドサービス”*5を用いて収集・統合し、PC上の地図に作物の生育状況とトラクターの走行状況を可視化します。これにより自律走行の軌跡とその精度を検証するほか、位置情報の活用による農業計画と運用の精度向上と最適化に取り組みます。
- ヤンマー:
- 自律走行型ロボットトラクターの開発・管理・運用を行います。
- 日立オーストラリア:
- オーストラリアにおける研究機関との調整・プロジェクト管理・ワークショップ設営
- 北海道大学:
- 精密農業による営農調査業務支援(農業情報工学研究)
- 宇宙航空研究開発機構(JAXA):
- 準天頂衛星運用(補正情報生成配信切替、技術支援)
- Cooperative Research Centre for Spatial Information(CRC-SI):
- 地理空間情報研究・調査検討支援
- Royal Melbourne Institute of Technology(RMIT) University:
- 高精度測位システム調査検討(衛星測位研究・調査検討支援)
- University of New South Wales(UNSW) Australia:
- 高精度測位システム調査検討(衛星測位研究・調査検討支援)
- University of New England(UNE):
- 精密農業による営農調査業務支援(精密農業研究)
- Rice Research Australia Pty Ltd(RRA):
- 精密農業による営農調査業務支援(稲作を対象とした農業研究)
- SmartNet AUS:
- 豪州における基準点データの提供
|
5. 対象地域: |
オーストラリア ニューサウスウェールズ州 |
6. 実施期間: |
2014年10月〜2015年3月 |
参考図:営農調査実施構成
- *1
- 準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System)について
- 日本〜アジア〜オセアニアにて利用可能とする測位衛星システムのこと。
- 既に2010年9月11日に準天頂衛星初号機みちびき(QZS-1)が打ち上げられており、2016年から2017年までに衛星3基が追加で打ち上げられ、2018年から4基体制でシステムが運用されることが決定している。
- 衛星の発信する測位信号が山やビル等に遮られないことから、日本全国において衛星測位が常時可能となる。
- 準天頂衛星システムの機能として、米国GPS衛星と同等な測位信号を発信する補完機能のほか、測位精度を高めるための補強機能を持ち、独自の測位信号であるLEX信号に高精度測位を実現するための情報を配信することができる。
- LEX信号の活用により、①高精度な測量、②高精度な交通・道案内、③高精度な自律車両走行支援、④精密農業などの次世代位置情報サービスが実現できると考えられている。
- *2
- 3種類の高精度測位方式について
準天頂衛星の高い測位精度を利用するための測位方式については各種団体からいくつかの方式が提案されており、それぞれ特徴が異なる。本調査では、衛星から測位データを直接受信する精密単独測位方式(PPP方式)と電子基準点などによる測位補助を行うPPP-AR方式を対象とし、次の3種類の中から適切な方式を選定する。
①RTNet [特徴]
- 高精度測位を行うための電子基準点を必要としない精密単独測位(PPP方式)であるが、センチメートルレベルの精度を実現するために、測位を行う地域にある電子基準点を使用して更に高精度な測位補正情報を求めて測位を行う方式(PPP-AR方式)である。
- 電子基準点網から約1,500km範囲においてセンチメートル級の測位を可能とする。
- 全世界に設置された電子基準点を使用して汎地球的な測位補正情報を求めて測位を行うことも現在実証中である。
②RMIT [特徴]
- RTNetと同様に高精度測位を行うための基準点を必要としない精密単独測位方式である。
- RMITはPPP-AR方式に対応。
- 使用する基準点は全世界に設置されているIGS(国際GNSSデータサービス)およびJAXAが運営するMGM-Net(Multi GNSS Monitoring Network)データであり、汎地球的な測位補正情報を求めて測位を行う。
③MADOCA [特徴]
- RTNetと同様に高精度測位を行うための基準点を必要としない精密単独測位方式である。
- MADOCAはPPP方式のみでありPPP-AR方式への対応は開発中。
- 使用する基準点は全世界に設置されているIGS(国際GNSSデータサービス)およびJAXAが運営するMGM-Net(Multi GNSS Monitoring Network)データであり、汎地球的な測位補正情報を求めて測位を行う。
- *3
- 電子基準点について
- 地上に設置されたアンテナとGNSS受信装置、通信装置から構成される測位・測地用途の基準点である。
- 従来の測量基準点は石柱に印を彫ったものであるが、測位衛星を基準としているため、前述のアンテナの位相中心が基準点となる。24時間/365日途切れることなく受信可能な測位衛星の電波を受信してデジタル化を行い、中央監視局へ通信装置によりデータを配信する。
- センターで収集した全ての電子基準点情報から、衛星誤差や大気の誤差を推定し配信する。本基準点を基に正確な測量又は測地を実施するためには配信された補正情報を測位計算時に適用する。
- *4
- LEX(L-band experiment)信号について
- GPSの補強(測位精度の向上や信頼度の改善)および次世代の測位基盤技術の確立を目的とした準天頂衛星初号機みちびき(QZS-1)独自の実験用信号のこと。
- LEX信号を用いたセンチメータ級の測位精度の実現が期待されている。
- 正式なサービスを目的とした新しい呼び方として今後はL6と呼称される。
- *5
- 地理情報 クラウドサービスについて
- 日立ソリューションズが提供するクラウドサービス。PC上の地図にさまざまなデータを可視化するGISエンジン“GeoMation”を含め、サーバーやオペレーションシステムなどのクラウド基盤、地図コンテンツ(電子地図、航空写真、衛星画像など)およびGISのAPIを提供し、GISを運用管理も含めワンストップで利用できるサービス。
- クラウドで提供するため、システムの初期導入や運用におけるコスト面、管理面での負担を軽減している。
※GeoMationは、株式会社日立ソリューションズの登録商標です。
以上