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2014年8月26日
シンガポール科学技術研究庁
株式会社日立製作所
シンガポール建築建設庁
環境配慮型ビルの普及をめざし研究を促進
シンガポール共和国(以下、シンガポール)の科学技術研究庁(以下、A*STAR*1)傘下の電力グリッド研究センター(以下、EPGC*2)と株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立)は、このたび、シンガポールの建築建設庁(以下、BCA*3)の協力のもと、先進の熱電協調制御システムを新たに構築し、EPGC施設内において実証運用を開始しました。
今回、EPGCと日立が構築した熱電協調制御システムは、発電機の余剰排熱を空調設備の動力エネルギーとして利用し、最も省エネ・省コストを実現する運転ポイントで空調設備を制御します。実証試験では、熱電協調制御システムを用いることにより、ビル全体のエネルギー効率が52%向上すると見込んでいます。なお、熱電協調制御システムは、BCAおよび、A*STARとシンガポールの国家開発省(MND*4)による「ビルの省エネルギーに関する補助事業」からの資金援助を受け構築したものです。
シンガポールでは、コージェネレーション(熱電併給)システムはあまり普及しておらず、多くのビルの空調・換気システム、送水ポンプ、照明、エレベーターやエスカレーターなどの設備は、大規模な電力網*5から供給される電気を動力源としています。これらの設備に必要なエネルギーは、商業ビルにおける総エネルギー消費量の54%*6を占めています。また、シンガポールでは、商業ビルのCO2排出量は、2020年までにシンガポール全体のCO2排出量の約14%*7を占めると予測されています。こうした背景から、商業ビルでは、発電に必要な化石燃料とCO2の排出量を減らすことができる、エネルギー効率の高いシステムが求められています。
今回構築した熱電協調制御システムは、EPGCの持つエネルギー技術と、日立が開発・実用化している省エネ空調制御システム*8の専門ノウハウを組み合わせて開発しました。熱電協調制御システムは、既存の発電システムと、これまで大気に排出されていた発電機からの余剰排熱を空調の動力源として利用する空調制御システムの2つを統合し制御します。この熱電協調制御システムをビルに適用すれば、余剰排熱を空調に利用できるため、発電機をフル稼働させる必要がありません。ビルには、電力と空調設備の動力エネルギーを供給しながら制御を行う機能が備わることで、エネルギー効率を向上させることができます。EPGCと日立は、熱電協調制御システムの導入により、発電システムだけで36%、ビル全体では52%のエネルギー効率が向上できると見込んでいます。
熱電協調制御システムの実証運用は、EPGCと日立が推進する3年間にわたる共同研究プロジェクトにおける重要なマイルストーンです。今後、A*STARと日立は、本システムの運用を通じて、サステナブルな環境配慮型都市をめざした研究を促進していきます。
EPGCのプログラム・ディレクターであるAshwin M Khambadkoneは、次のように話しています。「熱電協調制御システムの稼動により、EPGCは、ビルのエネルギー効率をさらに高めるための研究基盤を提供できるようになります。この分野における我々の研究は、より環境に配慮したエネルギー効率の高いビル、ならびに再生可能エネルギーの普及という政府の要請に応えるものです。本システムの構築によって、ビルに仮想発電所の役割を持たせるBuilding to Grid(B2G)というコンセプトを具現化していきます。」
日立の執行役常務 インフラシステム社社長の酒井 邦造は、次のように話しています。「日立は、A*STARと協力して、先進の熱電協調制御システムを構築できたことを光栄に思っています。日立の空調省エネ最適化制御技術とEPGCのマイクログリッド技術に関する専門ノウハウを統合することで、我々はビルや工場、地域社会にとって価値のある先進技術を生み出せるものと確信しています。また日立では、本共同研究を通じて得た成果を元に、2015年中に熱電協調制御システムを実用化することをめざしており、アジアを中心としたビルや工場向けに、省エネ・省CO2・低コストなソリューションとして提供していきます。」
BCAのCEOであるJohn Keungは、次のように話しています。「共同補助事業の呼びかけによるBCAからの資金の提供を受け、熱電協調制御システムプロジェクトでは、環境配慮型ビルの最先端研究を進めています。本システムは、シンガポールのグリーン・ビルディング・マスタープランを踏まえて開発が進められたものです。このマスタープランでは、2030年までにシンガポールにおけるビルのうち、少なくとも80%*9を環境配慮型ビルにすることを目標としています。本システムの実証により、安全、高品質、サステナブル、かつ環境に貢献する技術開発をさらに加速させていきます。」
このパイロットプラントでは、発電機の余剰排熱を空調設備の動力エネルギーとして利用し、最も省エネ・省コストを実現する運転ポイントで空調設備を制御します。ディーゼルエンジンの排気からの排熱は、温水(90℃)として回収され、回収された温水は、吸収式冷凍機へと供給され、空調用の冷水(7℃)を生成します。また熱と冷熱の需給バランスを整えるために、温水槽、冷水槽をフレキシブルに運用することができます。また、需給の状況にあわせて高効率に運転できるように、ポンプ、冷却塔ファンにはインバーターを設置しており、冷凍機も冷水温度可変型の冷凍機にしています。開発した熱電協調制御システムを導入することで、シミュレーションを用いた最適化演算により求めた設定値でビル内の全ての機器を効率的に運転し、エネルギー効率向上と省コストを実現します。
B2Gは、小規模な発電システム*10を使って、ビルで必要な電力をビル自体で作り出すというシンガポールの新しいコンセプトです。これにより、ビル自体が電力網、つまりマイクログリッドの一つとなります。多くのビルが、コージェネレーションシステムを組み込んだマイクログリッドとなり、大規模な電力網をつなぐことで、ビルは電力を供給するだけでなく、大規模な電力網へ余剰電力の提供もできるようになります。コージェネレーションシステムをB2Gのコンセプトに組み込むことで、ビルは仮想発電所の役割を果たします。発電システムが独立して機能するため、メインの大規模な電力網への負荷を減らすことが可能になり、災害などの緊急時対応などといった余剰を与えることができます。また、大規模な電力網とつながることで、電力の負荷変動に迅速に対応できることから、再生可能エネルギーの断続的な利用が可能となります。また、本システムの開発は、シンガポールにおける環境配慮型ビルのさらなる普及に向けて、新たな省エネアイデアを追求したり、さまざまな気象条件下にも対応できるエネルギー管理・制御システムの事業化に向けた実験サポートを行う研究基盤としての役割も果たします。本システムの導入によって、社会にB2Gの概念を浸透させるとともに、ビルが独立して機能できるように進めていきます。
EPGCは、A*STAR傘下の化学工学研究所(ICES)のプログラムにおいて、分散型発電の配電や、相互接続、活用などの中核分野における研究・開発活動を行う使命を担っています。これらの活動は、産業界、A*STARの研究機関、大学、シンガポールの公的機関と連携しながら、以下の通り推進しています。
BCAはシンガポールの建築環境の発展を促進する機関です。BCAは"a future-ready built environment for Singapore"をビジョンとし、安全、高品質、サステナブルかつ環境を配慮した建築環境を計画、実現することでシンガポールの人々の建築環境を豊かなものにしています。また、BCAは教育機関であるBCA Academy of the Build Environmentとともに産業界と連携してシンガポールの次世代建築環境を発展させるスキルや専門性の向上にも力を入れています。詳細は、こちらをご参照ください。www.bca.gov.sg.
A*STARは、世界トップクラスの科学研究と経済成長を推進し、活気に満ちた知識に基づきシンガポールの経済を革新主導型経済へ変換するための人材を育成する、シンガポールの主要な公共機関の1つです。その使命に沿って、A*STARは、シンガポールの製造部門を成長させ、新しい成長に不可欠な分野での研究開発を牽引しています。A*STARは、人材や産業資本を提供することで産業界を支援しています。A*STARは、バイオポリスやフュージョノポリス、その周辺地域において、バイオメディカルサイエンス、物理科学、工学研究などの18機関を統括しています。バイオポリスとフュージョノポリスの研究拠点には、A*STARだけでなく、企業の研究施設が増加しており、そこに所属する国内外の研究者、技術者たちで活気溢れた多様性のあるコミュニティとなっています。
A*STARに関する詳細は、こちらをご参照ください。www.a-star.edu.sg
株式会社日立製作所 インフラシステム社 技術開発本部
松戸開発センタ 空調・プラントシステム部 [担当:後藤田]
〒271-0064 千葉県松戸市上本郷537号
電話:047-361-6101
以上