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2009年1月21日
スポンジ型構成法を適用し標準ハッシュ関数SHA-1が持つ安全性の弱点を解決
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学と共同で、情報の安全性を確保する暗号技術の土台となる、安全で高速な次世代ハッシュ関数*1を開発しました。今回開発したハッシュ関数は、「スポンジ型構成法」と呼ばれる、全データを一括して安全な圧縮処理を行う方式を適用することで、現在標準となっているハッシュ関数「SHA-1*2」より安全性を高めながら、パソコンや携帯電話、ICカードなどの様々な製品やシステムにおいて高速処理が可能です。
急速に進展する情報化社会において、ネットワークを介して送受信される金融情報や機密情報などの様々な重要情報を保護するために、高度な暗号技術が重要な役割を果たしています。中でもハッシュ関数は暗号技術の土台となるもので、デジタル情報を圧縮して特徴値*3を抽出する関数です。この特徴値はデータの指紋とも呼ばれており、異なるデータから抽出された特徴値が一致する可能性はきわめて低く、情報がわずかでも変わると、変換される数値が大きく異なります。これにより、ハッシュ関数は、意図的な特徴値の操作が困難なことから、データの破損を検出するために用いられるほか、悪意ある第三者によるデータの改ざんを検出するためにも用いられています。
現在、最も普及が進んでいるハッシュ関数は160ビット長の特徴値を出力するSHA-1と呼ばれる関数です。しかし、2005年に、最新の暗号解析技術によって、ある種のデータについては特徴値が一致するようなデータを見つけやすい、という脆弱性が発見され、期待される安全性を確保できないことが明らかになりました。2004年以降、米国商務省国立標準技術研究所(以下、NIST*4)は、256ビット長の特徴値を出力するSHA-2*5への移行を推奨していましたが、これと並行して、2007年11月に、新たな標準ハッシュ関数を選定するコンペティション*6(以下、SHA-3コンペ)を開始しました。
このような背景から、今回、日立はルーヴァン・カトリック大学と共同で、日立が持つストリーム暗号の研究開発で培った技術と、ルーヴァン・カトリック大学が持つ安全性評価技術とを融合した、安全で高い処理性能を持つ次世代ハッシュ関数を開発しました。
これまでの多くのハッシュ関数は、一定サイズのデータブロック毎に安全な圧縮処理を行うという設計思想に基づいて設計されていました。これに対し今回開発したハッシュ関数は、全データを一括して安全な圧縮処理を行う 「スポンジ型構成法」を適用し、レジスタの効率的な利用により、データ全体を効果的に攪拌*7し、従来型に比べて高い安全性を実現しました。
ハッシュ関数は大量のデータを処理する用途も多く、処理に時間がかかると実用化の障壁となります。そこで、新方式では、単一の基本関数を複数個並列に配置する構造にし、並列処理実装を可能にしました。これにより、ソフトウェアによる高速処理ができ、パソコンや携帯電話、ICカードなど様々な製品やシステムで高い処理性能を出すことが可能になりました。
以上の技術により開発したハッシュ関数について、256ビットの特徴値を生成するアルゴリズムと、512ビットの特徴値を生成するアルゴリズムを試作し性能を評価した結果、前者は32ビットCPU上で13.9 cycles/byte、64 ビットCPU上で13.2 cycles/byte、後者は32ビットCPU上で25.5 cycles/byte、64ビットCPU上で23.2 cycles/byteの処理性能が得られ、両CPU上で高速な処理性能を出すことができました。特に、32ビットCPU上での結果は、SHA-3コンペでの評価基準の一つであるハッシュ関数SHA-2と比べても、約20パーセント高速となるものです。
2008年10月、日立とルーヴァン・カトリック大学は共同で、今回開発したハッシュ関数をSHA-3コンペに応募*8し、全64ハッシュ関数の中から今回開発した関数を含む51のハッシュ関数が候補として認定されました。今後は、安全性や性能等の様々な面から候補の比較が行われ、2012年にNISTにより次世代ハッシュ関数SHA-3が選定される予定です。
なお、このハッシュ関数の技術詳細は、2009年1月20日から滋賀県の大津市で開催されている「2009年 暗号と情報セキュリティシンポジウム」で発表しました。
株式会社日立製作所 システム開発研究所 企画室 [担当:塚越]
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以上