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Hitachi

2007年10月15日
株式会社日立製作所
日立グローバルストレージテクノロジーズ

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1平方インチ当たり1テラビット級のHDD実現に向けた
CPP-GMR方式の磁気ヘッドの基本技術を開発

再生トラック幅30 nmから50 nmの磁気ヘッドでクラス最高の信号雑音比を実現

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)と日立グローバルストレージテクノロジーズ(本社機能:米国カリフォルニア州サンノゼ市、CEO:中西 宏明/以下、日立GST)は、このたび、記録密度が1平方インチ当たり1テラビット級のハードディスク装置(以下、HDD)の実現に 向け、CPP(Current Perpendicular to Plane)-GMR(Giant Magneto-Resistive)方式の磁気ヘッド(以下、CPP-GMRヘッド)の基本技術を開発しました。
  CPP-GMRヘッドは、磁気ヘッドを構成するGMR素子の膜面に対して垂直に電流を流し、微小な磁界信号を読み取る方式で、次世代の磁気ヘッドの一つとして期待されています。今回、CPP-GMRヘッド素子の膜材料に、再生信号の出力を従来比で3〜4倍大きくできる「高電子スピン散乱材料」を用いるとともに、ノイズを抑制する技術を新たに開発しました。この結果、磁気ヘッドの読み取り性能を 決定する要因の一つである信号雑音比(以下、S/N比)*1を大幅に向上し、再生トラック幅が30 nmと50 nmの磁気ヘッドにおいて、それぞれ30デシベル(以下、dB)、40dBという、各クラス最高の S/N比が得られました。
  本成果は、垂直磁気記録方式*2のHDDにおいて、現行製品の2.5〜5倍に相当する、1平方インチ 当たり500ギガビットから1テラビット級の面記録密度を実現する磁気ヘッドとして、CPP-GMR方式が有力であることを示しています。

  近年の急速なIT化の進展と様々なデジタル機器の普及により、大容量の映像や音声をデジタル化して記録、再生するHDDは、さらなる記憶容量の大容量化と低コスト化が求められています。現在のHDDは、記録密度の向上に優位な垂直磁気記録方式が主流となりつつあり、また磁気ヘッドには、微小な磁界信号から高い出力を得ることが可能なTMR(Tunneling Magneto-Resistive)方式の磁気ヘッド*3が用いられています。今後、一層の大容量化に向けて記録密度を向上させるためには、TMRヘッドの微細化を進める必要がありますが、微細化によってヘッド素子の抵抗値が大きくなってしまうため、読み取り信号以外のノイズが増え、S/N比の低減を引き起こすという課題がありました。このため、TMRヘッドでは、記録密度が1平方インチ当たり500ギガビットを超える領域になると、正しい読み出し動作が行えなくなることが懸念されていました。
  これに対し、素子の抵抗が小さく、微細化や高速動作に適した磁気ヘッドとして、CPP-GMRヘッドの研究が進められています。CPP-GMRヘッドは、磁気ヘッドを構成するGMR素子の膜面に対して垂直に電流を流し、微小な磁界信号を読み取る方式で、微細化に適しています。ただし、TMRヘッドに使用されているTMR素子と比べて、外部の磁界信号の変化に対して素子の抵抗が変化する度合い(磁気抵抗変化率)が小さいため、読み出される信号出力が小さく、実用化のためには、読み出される信号の出力を増大させることや、ノイズの抑止などによってS/N比を高めることが課題となっていました。

  このような背景から、日立と日立GSTは、共同で、CPP-GMRヘッドによる読み取り信号の出力を増大させる技術と、ノイズを低減する技術を開発しました。
  開発した技術の特長は、以下の通りです。

(1) 信号出力が3〜4倍増大するCPP-GMR多層膜材料の開発

  物質中の電子の流れ(電流)が、磁化の向きによって大きく異なる「高電子スピン散乱材料」を用いた多層膜材料を開発しました。高電子スピン散乱材料とは、加わる磁界の向きによって、物質を流れる電子の散乱の度合いが大きく異なる材料です。この材料を採用することにより、従来のCPP-GMR膜に比べて、磁界に対する素子抵抗の変化、すなわち出力を3〜4倍向上しました。

(2) ノイズ抑制に適したCPP-GMR膜構造の開発

  CPP-GMR膜中に「電流狭窄ナノ構造膜」を挿入したCPP-GMR膜構造を開発しました。電流狭窄ナノ構造膜は、絶縁膜中に直径数ナノメートル程度の金属の電導領域を設け、これを、厚み方向(膜厚方向)に流れる電流の経路として利用するものです。読み出される信号の出力を増大させることができるほか、電導領域のサイズや配置によって素子抵抗を約一桁変化させ、最適値に調整することが可能です。
  磁性層に、上記(1)の高電子スピン散乱材料を用いた場合の課題は、大きなノイズ(スピン トルクノイズ*4)が発生し、高出力化の効果を損なってしまうことでした。開発した電流狭窄ナノ 構造膜は、ノイズの抑制に高い効果があることを確認しました。

  今回開発した技術を用いて、再生トラック幅が50 nmと30nmのCPP-GMRヘッドを試作しました。2.5型HDDの動作条件下で50 nm幅の磁気ヘッドを測定したところ、このクラスでは世界最高のS/N比となる40 dBが得られました。また、世界最小幅となる30 nmの磁気ヘッドでは、電流狭窄ナノ構造膜なしで、同様の条件下で30 dBのS/N比を確認しました。開発したCPP-GMR膜は、さらなるS/N比の向上が可能であり、今回試作した30 nm級の微細化技術と組み合わせることで、1平方インチ当たり1テラビット級の高密度記録媒体に対応可能な磁気ヘッドの実現が可能になると考えられます。

  なお、本成果は、2007年10月15日(月)から17日(水)まで東京国際フォーラムで開催される「第8回垂直磁気記録国際会議 (PMRC2007)」にて発表する予定です。

注釈

*1
信号雑音比:信号に対する雑音の比率を示したもので、この値が大きいほど雑音が少なく品質の高い信号が得られることを意味する。
*2
垂直磁気記録方式:磁気情報を円板面に垂直に配置して情報を記録する方式。磁気情報を円板面に水平に配置する面内磁気記録方式よりも、より小さな面積に、より多くの情報を書き込むことが可能。
*3
TMRヘッド:トンネル磁気抵抗効果素子を用いた磁気ヘッド。トンネル磁気抵抗素子は強磁性膜/絶縁膜/強磁性膜の三層構造で形成され、検出読出電流は膜の積層方向に垂直に流す。磁石である2つの強磁性膜の磁石の向きが平行の状態と、反平行の状態で電気抵抗が大きく変化する現象をトンネル磁気抵抗効果と呼び、これを利用して磁気ディスクに記録された磁気情報を読み出す。
*4
スピントルクノイズ:磁性体から流れ出た電子が、異なる磁性体に大量に流れ込む際に発生する、磁化の揺らぎに起因するノイズ。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:内田、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)

以上

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