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2006年3月1日

エレベーターの輸送力を革新的に向上させる
「循環式マルチカーエレベーター」の基本駆動技術を開発

1/10サイズのプロトタイプを試作し動作原理を検証

 

  日立製作所 機械研究所(所長:福本英士/以下、日立)は、このたび、エレベーターの待ち時間短縮や混雑緩和に向け、輸送力を大幅に改善する「循環式マルチカーエレベーター」の基本駆動技術を開発しました。本技術は、通常のエレベーター2基分の昇降路内で多数の乗りかごを循環させて運行する新しい方式です。今回、6〜8台の乗りかごを運行できる技術を開発し、1/10サイズのプロトタイプを試作して動作原理の検証に成功しました。
  本技術の活用により、将来的には、エレベーターの昇降路面積あたりの輸送力を通常の2倍以上(当社比)に向上させることが可能になり、ビル内の快適な移動に必要不可欠な設備であるエレベーターの利便性を損なうことなく、昇降路面積を最小化し、ビル本来の用途であるオフィスや住居の空間拡大とビル内移動の利便性向上の両立を図ることができます。

  エレベーターは、オフィスビルや商業施設、マンションなどに必要不可欠なインフラ設備となっています。特に近年は、オフィスビルを中心に高層化、大規模化が進展しており、その利便性向上が求められています。ビルの高層化などにともなう利用者の増加に対応するには、エレベーターの台数を増やす必要があります。エレベーターを多数導入すれば、待ち時間は短縮し移動の利便性は向上しますが、その分、昇降路面積が大きくなり、オフィスなどの本来用途の空間が減少してしまいます。このため、エレベーターの単位面積あたりの輸送力の向上が求められています。
  日立では、こうした課題に対して、高速大容量エレベーターやダブルデッキ(2階建て)エレベーターを開発、販売しているほか、1972年に業界初の即時予約システムを導入、2005年9月には混雑時の待ち時間短縮を実現する将来予測知能群管理エレベーターシステム「FI-600」を発売するなど、業界に先駆けて利用者の利便性向上を図っていますが、今後のさらなるビルの大規模化、高層化の進展を見据えて、課題を抜本的に解決する新たなエレベーターの技術開発を進めてきました。

  今回、基本駆動技術を開発した「循環式マルチカーエレベーター」は、通常のエレベーター2基分の昇降路の中に、6〜8台の乗りかごを配備し、循環式に運行するものです。これにより、エレベーターの昇降路面積あたりの輸送力が、通常の2倍以上と革新的に向上し、利用者の利便性の確保とオフィス空間の最大化によるビルオーナーにとっての収益性向上の両立を図ることができます。このたび、1/10サイズのプロトタイプを試作し、駆動機構の成立性、2本の昇降路間を移動する際の乗り心地、複数の乗りかごの制御など基本的な動作原理の検証に成功しました。日立は、「循環式マルチカーエレベーター」の将来の実用化に向け、今後もさらなる技術開発を進めていきます。

  なお、本技術および今回試作した1/10サイズのプロトタイプは、4月18日から21日まで中国の廊坊市で開催される「2006中国国際電梯展覧会」に出展する予定です。

 

今回開発した「循環式マルチカーエレベーター」の基本駆動技術の主な特長

 
 

1. 循環マルチカー方式

 

  マルチカーエレベーターは、2台以上の乗りかごが同一の昇降路を運行するエレベーターで、乗りかごを上下に2台連結して多人数が乗れるようにしたダブルデッキ方式がすでに実用化されています。しかし、2台の乗りかごが連結されて一緒に動くため、1台の乗降時にもう1台も停止する必要があり、さらに乗客が増えるほど多くのフロアに停止することとなり、輸送力向上には限界がありました。
  このため、本方式では、上昇専用と下降専用の2つの昇降路の上部と下部をそれぞれ連結してリング状の昇降路を構成し、その中で複数の乗りかごが独立して運行できるようにすることで、乗客の乗降による停止を減らし、単位面積あたりの輸送力を通常エレベーターの2倍以上に増大させました。

 

2. 独立循環ロープ駆動技術

 

  鉄道などの水平方向の交通手段では、個々の車両(移動体)が独立して動けるようにするため、各移動体にモータなどの駆動装置を搭載することが一般的です。しかし垂直方向の交通手段であるエレベーターでは、各乗りかごに駆動装置を搭載すると、駆動装置自身の質量を支えるために駆動装置そのものが大型化します。
  このため、今回開発した「循環式マルチカーエレベーター」では、リング状に繋いだワイヤーロープ(循環ロープ)に乗りかごを接続し、その循環ロープを建物側に設置したモータで駆動するメカニズムとしました。さらに、循環ロープを複数設けることにより、各乗りかごが独立して運行できるようにしました。

 

3. 対向かごつり合い方式

 

  通常のエレベーターは、乗りかごを接続したロープの他方の端につり合いおもりを接続することで、互いの質量をつり合わせ、省エネルギー化を図っています。今回開発した「循環式マルチカーエレベーター」では、省エネルギー化に加え、省スペース性も考慮して、つり合いおもりの代わりに、循環ロープのちょうど正反対の位置に2つの乗りかごを接続して駆動することで、互いの乗りかごを仮想のつり合いおもりとして利用しました。これにより、つり合いを取らなかった場合と比べて消費エネルギーを2/3以下に削減しました。
  本方式の採用により、乗りかごの運行の自由度は1/2に減少しますが、オフィスビルにおいて最も輸送力が必要とされる朝の出勤ラッシュ時には、下降側の乗りかごに乗客が乗ることはまれであるため、下降側の乗降で上昇側が待たされる可能性は低く、輸送力には大きな影響を与えません。

 

「循環式マルチカーエレベーター」の導入効果

 

  今回開発したマルチカーエレベーターは、10〜20階程度のローカル運転において特に高い輸送力を発揮します。通常の2倍を超える輸送力により、利用者の利便性を損なうことなく、エレベーターが占有する空間を1/2以下に抑制できます。
  また、より高層のビルの場合には、他の方式のエレベーターと組み合わせて用いることになります。具体的には、展望階など特定のフロアに一度に乗客を運ぶシャトル運転に極めて高い輸送力を有するダブルデッキエレベーターとの組み合わせが適しています。例えば、10〜20階ごとに設けた乗り継ぎフロアまではダブルデッキエレベーターで移動し、そこからマルチカーエレベーターに乗り換えて目的フロアに向かう組み合わせなどが考えられます。組み合わせを工夫することにより、用途や規模が異なる様々なビルに対しても、輸送力と利便性の革新をもたらすことができます。

 

「循環式マルチカーエレベーター」の駆動原理と1/10サイズのプロトタイプ

 
「循環式マルチカーエレベーター」の駆動原理と1/10サイズのプロトタイプ
 
 

お問い合わせ先

 

株式会社 日立製作所 機械研究所 企画室 [担当:高岡]
〒312-0034 茨城県ひたちなか市堀口832番地2
TEL : 029-353-3047 (直通)

 

以上

 
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