日立製作所中央研究所(所長:西野壽一)は、このたび、従来のフラッシュメモリ1)に比べて面積が40%で、かつCMOS2)論理回路と同レベルの1.5Vの低動作電圧で駆動する新概念のフラッシュメモリセルを開発しました。
今回開発したフラッシュメモリセルは、高集積化が難しく情報の書き換えに十数ボルトの高い電圧を要するというフラッシュメモリの課題を解消し、低電圧動作のマイクロコンピュータ(以下マイコン)3)向け大容量オンチップフラッシュメモリの実現に道を開く技術です。
マイコンは、私たちの生活を支える家電品、情報機器あるいは自動車の頭脳として、これらの機器の制御に広く用いられています。通常、マイコンは複数の半導体から構成され、機器の制御用プログラムの記録には、書き換えが可能で長時間記憶を保持できるフラッシュメモリが用いられています。近年、より大規模で高度なプログラムを記録できるよう、フラッシュメモリの大容量化が求められていますが、フラッシュメモリは、大容量化すると制御用の回路面積が大きくなるという課題がありました。加えて、情報の書き換えには十数ボルトの高い電圧が必要なため、低電圧動作のマイコンを実現する際のネックとなっており、低電圧動作と、高集積化を同時に実現するフラッシュメモリが望まれていました。
日立中央研究所では、今回、従来のフラッシュメモリセルの構造を抜本的に見直し、高集積化と低電圧化を同時に実現する、マイコン向けオンチップフラッシュメモリセルを新たに開発しました。技術の特徴は次の通りです。
(1)新型メモリセル構造4) |
制御用と記憶用の2つのトランジスタを組み合わせた、新しいメモリセル構造を開発しました。記憶用トランジスタにはシリコン窒化膜を用い、情報の書き換え時に要する電圧、電流を低く抑えることが可能になりました。 |
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(2)低電圧動作 |
従来のフラッシュメモリセルは、情報読み出しの際に、制御用トランジスタに数ボルトの高い電圧が必要でした。今回開発したフラッシュメモリセルは、制御用トランジスタに、マイコンと同じ電圧で動作するトランジスタを用いることで、1.5Vという低い電源電圧でも十分な読み出し信号量が確保できるようになりました。 |
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(3)高集積化 |
低電圧で動作する制御用トランジスタを用いたことで、これを駆動するドライバも低電圧で動作する微細なトランジスタで構成することが可能となりました。また、書き換え時に必要な電流も抑えられるので、電源部の面積も縮小できました。これにより、フラッシュメモリ全体の面積を従来の40%に小型化することが可能となりました。 |
今回開発したフラッシュメモリセルにより、チップ面積を変えずにマイコン向けオンチップフラッシュメモリの大容量化が可能になります。同時に、1.5Vという低電圧動作を実現したことで、今後のマイコンの低消費電力化をさらに加速させる技術として期待がかかります。
なお、本技術は、9月16日から東京で開催される固体素子に関する国際会議「2003 International Conference on Solid State Devices and Materials」にて発表されます。
【注釈】 |
(1) |
フラッシュメモリ:記憶情報の一括消去が可能な、不揮発性半導体記憶装置。 |
(2) |
CMOS:Complimentary Metal Oxide Semiconductorの略。相補型金属酸化膜半導体。 |
(3) |
マイコン:マイクロコントローラ。主に機器制御を行う半導体論理演算処理装置 |
(4) |
メモリセルを構成する制御用と記憶用の2つのトランスタを、ソース電極とドレイン電極の間に並べる構造です。従来のメモリセルは2つのトランジスタを重ねたスタック構造であったため、情報の書き換えも読み出しも、制御用トランジスタを使っていました。新構造のメモリセルでは、書き換え動作は記憶用トランジスタを、読み出し動作は制御用トランジスタを、それぞれ用いて実行します。 |
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